「最高」のアニメーションってどんなものでしょう?
言うまでもなく、その内容は人によって異なると思います。
説明するまでも無いと思います。
ただし、「最高」の内容は自分の想像や経験がベースになって決まってくる、ということは言えます。
私は視聴者の側ですから、アニメーションそのものの側に立って「最高」の内容を決定することは残念ながらできません。
絵を描くことに精通しているわけではないですし、様々な「動き」に対して観察と考察の目を向けているわけでもないからです。
よって私のような視聴者は、自分がある程度精通している動きを表現したアニメーションに触れ、そのアニメーションが動きをどの程度表現できているか、という判断をして「最高」の内容を決めていくことになります。
しかし困ったことに(?)、繰り返しになりますが、アニメーター達は動きに対して、普通の人では不可能な程の観察と考察の目を向けています。
仕事だから当たり前ですけど。
普通の人は動くことについてアニメーター以上に細かく理解するのは難しいということになってしまいます。
例えば歩くということを例にとります。
私は普段、歩くということをどの程度意識して生きているでしょうか。
モデルやデューク更家のような仕事もしていないので、なかなかそういう意識は持てません。
ですから、普段意識していないために、多少おかしい程度の歩くアニメーション作画を目にしても違和感はそれほど感じません。
脳内補正でなんとかなってしまいます。
また、相当良い作画で描かれている歩き作画でも実はその良さがよくわかっていない、ということになったりもします。
しかしこれは、一般人でもアニメーター以上に精通している動きがあれば、その動きの作画については良し悪しが一目でわかるということにもなります。
さて、歩きのアニメーションの例では話がここで終わってしまいますから、少し話を戻して動きの事象の例を変えます。
私自身の「最高」のアニメーションを決めるため、動きの例がダンスに変わります。
歩くことなどとは違い、踊ることは常に自分の体の動きを観察し考察することであります。
そして、その帰結の再現を目指して実践を繰り返すことです。
私はダンサーなので、ダンスのアニメーションの作画だったらどんなアニメーターの人よりも(リアル系という前提なら)良し悪しがわかると思います。
ダンスの動きに加え、
そのような動きを実践するときはどこがどのように動くか
どこに重心があるか
どのタイミングでどこに力を入れるか
さらにはどこが痛いからどこに余計な力が入るか
このようなことまで実体験に基づいて知っているからです。
では、このような自分の体験を基にして「最高」のダンス作画のアニメーションが何になるかを決めてみます。
悩むこともなく、一瞬で決定します。
大平晋也によるこのアニメーションです。
これは映画「ギブリーズ」に出てくる、ブレイクダンスのアニメーションです。
私ブレイクダンサーですので、実感を持ってすごいとわかります。
ダンスアニメ作画史上では、間違いなく最高の作画です。
最近はダンス作画のOP・EDとかも流行っていますが、大平のこのダンス作画とは全く比較になりません。
圧倒的な大差をつけての一位です。
他のはすべて大したことありません。
なぜすごいかと言うと、やっている人がポイントになると感じる部分にデフォルメを施しているからです。
ダンサー目線で見て、力が入ってるところや早い動きを感じる部分が正確に選択され、デフォルメされています。
上述しました力の入り具合や動きのポイントが超リアルに描かれているのです。
もっとすごいパワームーバーになるとさらに細かい違和感とかあるのかもしれませんが、私から見たら完璧です。
人に教えるときに見せたいぐらい。
ダンス自体はあんまりうまくはないんですが、その上手くない人の踊りが達者に表現されているというのがまた良いです。
大平自身がブレイカーだったと言う話は聞かないので、きっとよく観察し、想像して描いたのだと思います。
なにを見たのかはわかりませんが、観察と想像のみからこのようなアニメーションができあがるということは、もはや天才の証明以外にはなり得ない。
他のものを描いたアニメーションについても同様であることが易々と予想できます。
ダンスのアニメーションほどはよくわかっていないんですが、大平についてもう一つ。
タメの間が妙に滑らかに動くという作画。
この作画は大平がよくやる印象。
イノセンス
前話題にした沖浦の作画に似ているような感じですが、ツメタメのキレがところどころに見られます。
おそらく強調したい部分(ツメ)をより効果的に見せるために、タメを滑らかにしているんだと思います。
ヌルヌル動く作画は昔からありましたが、このような、タイミングのデフォルメを強調するヌルヌル動きの作画は個性的です。
すごく効果的だしカッコイイ作画だから、もっとやる人増えてほしいなと思います。
でも大平の作画の方法はフォローするのが難しいということがよく言われます。
こういうのもやっぱり難しいんでしょうか。
このあたりは同業者の目線じゃないとわからなそうですね。
アニメーションについて、作画について詳しくなるほどにすごさがわかる人なのかもしれません。
と、こんな感じに、大平晋也はモロに過激派天才系のアニメーターだということで〆です。
超難しい方法論なんかも、ものすのごい量の思索と想像の果てに編み出したりします。
「アニメーションの実践」を学問的に捉えた場合、その筆頭になるお人ではないでしょうか。
そんな大平先生、動かすことにしか興味がありません。
線のきれいさとか、キャラ合わせとか、動かすこと意外全部無視で原画を描くこともあります。
大平原画のシーンにはキャラ名のテロップが出てきたこともあります。
漢だぜ。
~今回はアニメ関係ないけど役に立つかもしれない補足~
ブレイクダンス
ブレイクダンス→ブレイキン
ブレイクダンサー→ブレイカー
と言います。
頭で回ったり足をぐるぐるするのはパワームーブ。
床に手をついてフットワークを刻むのはスタイル。
ほとんどの人は一方に偏って行き、他方はたまにしかやらなくなります。
ちなみに私はパワームーブばっかりやってるパワームーバー。
(スタイルばっかりやってる人はスタイラー)
おまけ
すごいパワームーブ